■ 森閑とした短編集といってよいと思います。
この中の「沈黙」はマムの大好きな短編です。
【沈黙】
春樹さんの小説の中では、地味なものです。
内容を一言でいえば、青木という生徒から高校生活で理不尽な虐めにあった話です。
派手な仕掛けは一切ありません。時空を駆けることもなければ、怪異現象がおこるわけでもありません。
が、主人公は小説後半でこう言いきります。
「僕が怖いのは青木のような人間ではありません。・・・僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の話を無批判に受け入れて、そのまま信じこんでしまう連中です。自分では何も生み出さず、何も理解してないくせに、口当たりのよい受け入れやすい他人の意見におどらされて集団行動する連中です。・・・」
こう書いてしまうと「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、主人公がここにいたるまでの過程はとても緊迫しており、小説作法的にも揺るぎ及び隙がなく見事であり、それゆえに読む側に説得力があります。
この地味(何度もいいますが)な作品は村上春樹さん自身を投影しているのではと思わせます。
村上さんの人となりを築いているように思います。
掌編なのに長編を読んだような思いを受けます。
昨今の、若い作家さんが書く学校生活、青春模様がとても稚拙に思えます。
文学賞選者の方々もこの小説を読むべきあるいは再読されるべきではないでしょうか。
そうすればもっと文学賞に重みがつくとおもうのですが。
それくらいのことを言ってみたくなるような秀逸な短編です。
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